ストラディバリウス事件に見る日本の後進性

ドイツのフランクフルト空港でバイオリンの通関手続きで150万ドルの支払いを要求されたらしい。さすがストラディバリウス(今回のは推定800万ドルとのこと)と思って日本の新聞社などのサイトを見るとやはり騒ぎだが何故かあたかもフランクフルト空港の税関が無理難題を押し付けているかのような論調が多く驚き。

今、欧州は各国税関は非常にピリピリしていて、少し高額なものは『待て』がかかる。これは長引くユーロ危機で税収の落ち込みが各国とも深刻で税収を上げたいというのが本音にあることも確かだし、比較的安定しているドイツや北欧ではマネー・ローンダリングが大きな問題のため余計にユーロ圏外からの物品の輸入(関税)や輸出に煩いのだ。
音楽家を装って名器と呼ばれる楽器を使いマネー・ローンダリングなどが横行している現状もある。
さらに、アメリカなどはテロ警戒のため、異臭がしたスタインウェイのグランドピアノを破壊したなどの話題はしょっちゅうだ(後に異臭は”にかわ”だったと判明)。今回のようなバイオリンなどはドラッグの運び屋がよく使う入れ物だし。

ストラディバリウスの所有者は日本音楽財団。これを借用してドイツ在住のユキ・マヌエル・ヤンケさんが演奏のためにドイツに持ち込もうとしたが、ドイツ在住のためそれを輸入と見なし、税関はそれをドイツ国内で販売する可能性も否定できないことから機械的に申告額800万ドルに対するVAT(付加価値税)の19%に相当する150万ドルの支払いを請求したのだ。
いかにも(建前上)厳格なことが好きなドイツ(ダブルスタンダードは日本の比ではない国民性だが)らしい処置だと感じるが、残念ながら非は一方的にヤンケさん(と日本音楽財団)側にある。

今回の場合ははっきり言って、ストラディバリウスの所有者である日本音楽財団の書類不備の怠慢が原因だと思われる。ヤンケさんは演奏家にすぎない。

高額な物品の持ち出しには、ATAカルネ(carnet:フランス語で『手帳』)というATA条約に基づいた書類があり、これが外国への輸入税の支払いや保証金が不要になる保証書となる。ただし必須ではない。
通常は日本人が日本にあるものを海外に持ち出すためには、
・日本出国時の輸出通関手続き
・行き先の外国入国時の輸入通関手続き
でOKだが、持ち帰る場合はさらに
・外国出国時の再輸出通関手続き
・日本での再輸入手続き
の2つが加わり、複数の国を移動する場合は上記2番目と3番目を繰り返す。
これら面倒な書類整備を必要とせず一括でやってくれるのがATAカルネだ。
正式には『物品の一時輸入のための通関手帳』というのだが、これがきちんと整備されていれば今回の問題が起きなかったはずだ。

というのが杓子定規な見方だが、実は通関手続きで必要な書類などは大したことがなく、決まりきった英語がわかれば簡単だ。
おそらく最も大事な『所有者』(日本音楽財団)と『一時的な借用者』(ヤンケさん)の関係を記した書類が無いか未整備だったのだろう。ドイツ語で書いてあればさらに良かったことだろう。
筆者なら在フランクフルト領事館に『何とかしてくれ』とhelpするところだが、このヤンケさんはドイツ国籍なのだろうから日本の領事館は受け付けない建前でどうしようもなかったと推測できる。

一見便利なATAカルネは法律上必要なものではない。これを仕切っているのは『一般社団法人日本商事仲裁協会JCAA』。まあ、財務省の天下り先である。
一方の公益財団法人日本音楽財団は競艇–>日本財団–>日本音楽財団なので管轄も想像に容易い。
必要書類を巡って何らかの鞘当があったのかもしれない(^^)。
あとはいつものシロアリ、天下りの話なので省略だが、こういう通関の基本的な情報はもっと一般的に広報するべきだし、海外に渡航する日本人は知っておくべき知識だ。
国際化などと簡単に言っても便利になったのは安いのが自由に選べる航空券のチケットくらいで日本と他国との入管やモノのやり取り、関税に関する広報などはまだまだ日本側では遅れているというか『知っている人だけ儲かる』状態と言わざるを得ない。

10年くらい前と違って、ノートPCや高価なデジカメなどを複数台持ち歩く人は渡航の際は要注意ですよ。

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ストラディバリウス事件に見る日本の後進性 への10件のフィードバック

  1. 偏見 より:

     
    なるほどねぇ・・・。
    日本の記事やTVではあたかも人種的偏見、差別みたいなものに持っていこうとするかのような空気ですがそんなことはないのですね。
    勉強になります。

  2. Argus より:

     
    偏見さん、こんにちは。

    ネットではそんな感じですか・・・。
    有色人種に対する偏見・差別ですか? ありますよ、未だにというか
    ここ数年また強くなってきている印象が個人的にはあります。
    経済力をつけてきた『やたら五月蝿い支那人』と『下品で拝金主義の
    朝鮮人』というのが定着していて嫌う人が多く、外見上区別のつきに
    くい日本人までとばっちりを受けている格好です。
    でも、今回の一件は明らかに書類の不備あるいは音楽財団側の『驕り』
    みたいなものが背景でしょう。
     
    アジア人で日本人がちょっと特別扱いされた時代は終わったと思いま
    すから、日本人だからといって特別扱いを暗黙のうちに求めるのはも
    う無理です。もっと日本人が主張したり特亜の隣国とは違う『文明』
    だということを世界に知らしめないといけませんね。
    (微々たることながら私は努力しています(^^))
     
    とにかく今回の一件を無理矢理有色人種に対する偏見・差別みたいな
    ものに引っ張っていく考え方は、理不尽な朝鮮人と同じ思考ですから
    やめないといけませんね。
    だって、ヤンケさんはドイツ人で、税金を要求したのはドイツの税関
    ですから日本人が口出しできることじゃありません。

  3. ヘルブラウ より:

    SECRET: 0
    PASS:
    Guten Tag !
    20年以上も前の話なんですが、
    昔私が弾いていた琴(安物です)をドイツに持ってきた時も
    税関で50マルク払うことになりドイツ人旦那が貧困なドイツ国を
    恥ていましたよ~笑、

    ドイツの税関を責めるのは残念ながらお門違いのようですねっ。

  4. Argus より:

     
    ヘルブラウさん、お久しぶりです。
     
    ウィーンはもうずいぶん涼しくて天気はいいものの日中で15度くらいです。
    秋田は夜でも20度くらいありましたからちょっとプルプルしています。
    温かい日本風の薄めのコーヒーが美味い季節です。
     
    そちら(ハンブルクでしたよね?)は天気はどうですか?
     
     

  5. ヘルブラウ より:

    そちらだと挨拶は、Gruß God ! でしたねっ、

    こちらはどんより雨の典型的なハンブルク気候で、
    9月の半ばから家では暖房が入っております。

    もうすぐ日本へ3週間ほど行くことになっていて
    日本の暖かい気候と秋の味覚を期待しておりますのよ~

    私のブログはたまに限定記事がありますが
    大体は公開記事なのでよかったらまた寄ってみてくだされ!

  6. Argus より:

     
    >こちらはどんより雨の典型的なハンブルク気候

    あー、何となくわかります。
    日本のどちらに帰られるのかわかりませんが、太平洋岸の秋晴れ
    の青空はきっと気分スッキリでしょう。
    私は明日からポーランド、ラトビア、(行けたら)モスクワを回っ
    て帰国です。
    ではでは。
     

  7. 吃驚 より:

     
    独財務省、バイオリン返還を指示 税関は反発(共同通信)
     
    【ベルリン共同】ドイツのフランクフルト国際空港の税関で同国在住のバイオリニスト、有希・マヌエラ・ヤンケさん(26)が名器ストラディバリウスを差し押さえられ、関税約1億2千万円を請求された問題で、8日付のドイツ大衆紙ビルトは、財務省が税関当局に、バイオリンを返還するよう指示したと報じた。ただ税関当局は激しく反発。職員が検察当局に、脱税行為を手助けしているとしてショイブレ財務相を告発したという。

    ド、ドイツだぁ・・・。

  8. Argus より:

     
    へぇー、そうなんですか。
    確かにドイツ人の気質っぽいものを感じますね。あまり先を考えずに
    厳格に突進しちゃうとか(^^)。でもそういう国民性好きです、私は。
    ルフトハンザなどで、ドイツ人CAとトラブってもワイワイ騒がないよ
    うにしないと逆切れして硬直化しますからご注意を。(^^)
     
    財務相はIMF総会で東京に行っているでしょうからそこで政治決着で
    しょうね。
    ギリシャやスペイン救済でドイツ国内は賛成・反対が真っ二つですか
    らその辺もあって役人と財務相側の鞘当でしょう告発は。

  9.   より:

    >貸与の契約書や日本での納税証明書など必要書類はそろっていたが、ドイツ税関は「転売しない保証がない」との理由で持ち込みを認めなかった。
    東京新聞

  10. Argus より:

     
    おはようございます。
    そうですか、でも日本の納税証明書(日本語でしょう)なんて海外じゃ
    役に立ちませんしね。
    この問題、日本ではマスコミが大騒ぎですか?
    あまり騒ぐとドイツ側が今度は内政干渉だと騒ぎかねませんね。
    ちなみにBild紙なんかは財務相より怒っている税関側に肩入れしてい
    る雰囲気です。
    http://www.bild.de/regional/frankfurt/zollamt/zoff-um-beschlagnahmte-mio-geigen-am-airport-26594078.bild.html
     

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