改正労働者派遣法と日本の方向

日本では安保法制審議ばかりがメディアの中心(直近では洪水被害)だが、11日に改正労働者派遣法がサラッと成立したようだ。一時あれほど騒いでいた(2回廃案)野党も安保法制のほうを向いているのか得意の『暴挙だ!』とも騒がず、野党がポピュリズムに陥っているミゼラブルな状態。
(アホ民主などは支持母体を考えたら安保より優先順位が上じゃないのか?)
中身は、どうも玉虫色で派遣期間の撤廃と同一部署の期間制約といった組み合わせによっては『派遣労働』というポジションをしっかり確立させ永続性のある『市民権』を与える法律なのだが・・・。

使用者側である筆者としては経理上は広義の人件費を外注仕入にしたほうが節税にもなるため、派遣に限らず非正規雇用といった労働・雇用市場のさらなる流動化は歓迎すべきなのだが、幸か不幸か企業規模をさして大きくするつもりもなく社員さん一人一人の能力・スキル重視のため『誰でもいい』という(企業活動の歯車的な)雇用をしていないため、あまり関係ないといえばそうかもしれない。ただ、愚息、愚娘達の数年先の日本の状況を想像すると少々心配ではある。

労働市場が流動化するということは、使用者側にとっては生産・サービスの一部であるヒューマンファクターに関してより低廉なものを選択できる可能性が増えることと、外国人だろうが日本人だろうが関係なく選択可能でその幅も増える。逆に労働者側にとってはスキルに合わせてキャリアアップを図ることが可能になるはずだが現実の日本では求人と求職のセクタがアンマッチで大きな偏りがあるためなかなかそう簡単にはいかないのも現実だ。
耳障り良く書けば労働市場の流動化や解雇しやすくすることは労働市場の活性化につながり、やる気のある人間はよりよい条件の雇用を求めやすくなるということだが、現実にはそれはごく限られた場合であって企業側の人件費低減やアウトソーシングによる利益増加や節税に現れるだけとも言える。

労働や雇用に関しては既に2006年のOECD報告書で日本は所得格差問題を指摘され、従来、日本は所得の不平等度が少ない社会と見られてきたが『日本はもはや平等な国ではない』と結論付けられた。
これ以降、政権が民主だろうが自民だろうが雇用や賃金やNEETに関する各種統計指標を毎年見ている限り大雑把に言えば、
OECD平均よりも良いもの —-> OECD並に低下・悪化
OECD平均よりも悪いもの —-> 変わらず、あるいはより悪化
が傾向のようだ。結果、全体としてOECDでは優等生とは言えない状態だ。
24歳以下や24~29歳といった世代の各種統計は、明らかに所得格差、不平等感の根拠になる指標ばかりだが、これを日本の(独法)労働政策研究・研修機構あたりの解説記事などを読むと、日本の指標の算出方法が違うだの何だのと・・・(それなら統計の取り方をOECDに合わせたら、あるいはそう提言したら良いではないか)

解雇については国別に若干特徴がある。雇用保護規制指数というのがあり、正規雇用、一時雇用の解雇のしにくさ、集団解雇のしにくさを表す数値があるが、2003年の場合で、
正規雇用、一時雇用、集団解雇の順に、(数字が大きいと保護されていて解雇しにくい)
アメリカ 0.2 0.3 2.9
イギリス 1.1 0.4 2.9
ドイツ  2.7 1.8 3.8
フランス 2.5 3.6 2.1
日本   2.4 3.6 2.1
一般にコモン・ロー系の国(英米等)では個別の解雇はしやすいが集団解雇はしにくい、ユニオンが頑張るのも理解できる一方、制定法主義の国(独・日・仏等)では集団解雇のほうがややしやすいという特徴がある。ユニオンの力が無くなってきた?
日本は、その正規雇用や一時雇用の解雇をしやすくしようとしていて(上記数値を下げる方向)、制定法主義であるにも関わらずコモン・ロー系の国に近づこうとしている。
(これがどういう意味かはそれぞれの解釈に任せたい)

若年層の格差を拡大し、派遣法改正(悪?)や解雇しやすくすることによって労働市場を流動化させる方向が現在の日本の流れであることは間違いない。
しかし、一方では企業合併・統合などが頻繁に行われ、大企業はより大きくなってToo Big to Fail(大きすぎて潰せない)を目指し、東芝や少し前のオリンパスのように粉飾決算をしても社会的にあまり叩かれないといった株主も含めてモラルハザードの状態での生き残り競争の現実もあり、雇用・労働環境だけが昔のように『安定』という状態ではいられないというのは事実のようだ。

超巨大な世界的なコングロマリットは別としても、仕事をある程度選べる規模のオーナー企業を維持したり、自営業のほうが遥かに楽しいワーク・ライフ・バランスが実現可能であると筆者は感じている。
大きな変革が無い限りこういった流れが続くのは必至で、若い人、これから社会に出る人たちは大変だなと同情する気持ちもある。

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改正労働者派遣法と日本の方向 への9件のフィードバック

  1. ブルーベリー より:

    手続きを踏めば、派遣の3年制限が無くなる訳ですね。
    実際、3年で正社員になったという話はあまり聞きません。
    むしろ、3年の直前に雇い止めされるのが一般的でしょう。

    法律で縛っても、どうせ正社員にしないんだから3年規制がないほうが良い。
    同じ職場で、長期間働けるほうが良いはず。
    いまは、労働の現場ではアウトソージングやパートが半数を占めているのが現実で、
    「正社員でないのはケシカラン」なんて時代錯誤でしょう・・・

    ピケティが指摘するように、どの国も資本家と労働者の差はどんどん開き続けます。
    株式投資などで、労働者が資本家の立場になるしかないと考えています。
    誰しもが資本家になるべきです。

    • argusakita より:

      株式会社というのができたのは17世紀のロンドンなのですが、それまでの使用者と労働者に新たに資本家というのが加わってできたわけです。
      その仕組みを上っ面だけ日本も輸入して1873年に渋沢栄一が第一国立銀行(今のみずほ銀行の大元)、商法に基づいて1893年の日本郵船(三菱)が設立されたのですが、日本の場合は資本家はあまりモノを言わない慣習が最近まで続いていたので日本人は『会社は働く者のモノ』などというまやかしが平気で言われていたわけですが、バブル以降でしょうか、モノ言う資本家が増えて、400年前の本来の姿に回帰しつつあるのだと思います。
      それもグローバリズムというイデオロギーなのだと思いますが、資本家だけでなく使用者も労働者も意識が変わらないとうまく回らない。
      今はその変革期、過渡期にあると思います。

      >株式投資などで、労働者が資本家の立場になるしかないと考えています。
      >誰しもが資本家になるべきです。

      同感です。ただし、右肩上がりだけが命題である株式会社というものを選択しなければ、それなりの生き方はできます。

      ピケティよりもフランスのエマニュエル・トッドの『世界の多様性』(1984年)と『帝国以後』(2002年)は現代日本人がぜひ読むべき著作だと思います。前者は日本と欧州(これも細分化)とアメリカの企業文化の違いを理解するのに非常に役立ちますし、後者は現在世界で起きているいろいろなことを的確に予言しているように感じます。
      個人的にはノーベル賞が与えられても不思議ではない歴史学・人類学者だと思います。

  2. 社長兼雑用係 より:

    先日から、ここのblogをお気に入りに登録して毎日拝見しています。
    ハッと気づかされることもあり参考になります。
    Argusさんのように国際的に仕事をしているわけではないものの、同様に経営者の立場なので今回の派遣法改正は興味を持って見ていました。
    労働者からみたら改悪、使用者と資本家から見たら改正。これに尽きますね。

    今は大きな企業では社員教育もシステマティックに実施して「育成」「訓練」はしますが、昔風な「社員を育てる」という日本的なものは無くなりましたね。小さい企業では前者はもともと困難ですが後者もコスト的に難しいのと労働者側がそもそも仕事に対する姿勢というか職業観が変わったので自己実現のために努力し成長しようというのが無くなってきていると感じます。
    そうなると「歯車」は高質で低廉なのがいいという単純な判断になるのは仕方がないかなとも思います。

    ただ、敢えてキツく書くと正規だ非正規だと主張する(特に)若者の場合は最初から『歯車』志望でロクなもんじゃないのもよく感じます。だったら自分で一旗揚げろと。
    正規雇用だとボーナスもあり、保険や年金もしっかりしていて、結婚して子供も育てられ、マイホームや車も買えて、老後も….という予定調和のようなものが現実は既に崩れているのに気づいていない人たちが「正規、正規」と騒いでいるように見えて少し滑稽です。
    高度成長期に三種の神器を夢見て働いていた「歯車」達と同じように漠然とした「安定」に執着するのは実に不思議です。

    現実は、「安定」なんてないんだからぁ~♪

    • argusakita より:

      >ただ、敢えてキツく書くと正規だ非正規だと主張する(特に)若者の場合は最初から『歯車』志望でロクなもんじゃないのもよく感じます。だったら自分で一旗揚げろと。

      全く同感。
      ウチのような零細では即戦力しか採用しませんが、社員さんを教育や訓練させるのはOJT以外にありません。

      昔と違って安定していない現実社会であるにもかかわらず、安定を求める、求めないといけない、安定させろといった主張は、どこか安保法制に反対する現実逃避の連中と同じような臭いがします。

  3. 機械屋 より:

    派遣法改正、確かにニュースもあまり取り上げていません。
    私は「使う側」ではなく「使われる側」なので、派遣法改正よりは解雇規制緩和の行方のほうが気になっています。(明日は我が身!!)
    私みたいな平凡な者にとっては自分で起業する知恵もアイデアも無いので「使われる側」でいいやと諦めて就職したわけですが、特にここ10年くらいは安心して定年までという状況ではないです。
    同期入社(50人くらいいました)の8人くらいしか身近にいなくて、他は関連会社やその他に消えました。
    せいぜい「こいつ解雇したらもったいないな」と会社側に思わせるくらい頑張るしかないかなと常々思っています。(笑)

    例え正規雇用であっても同じ「使われる側」の中での生存競争があるということを若い人たちはあまり考えていないんだろうなと時々感じます。
    正規とか非正規とか言う前に自分で何をしたいか、何ができるかを考えたら「こだわり」は本来はもっと別のところにあるはずなのですが。

    それと、非正規で解雇(雇い止め等)は次のチャンスがありますが、正規雇用で解雇の場合は次のチャンスはほとんどないのも日本ですよね。

    • argusakita より:

      >正規とか非正規とか言う前に自分で何をしたいか、何ができるかを考えたら「こだわり」は本来はもっと別のところにあるはずなのですが。

      ですよね。
      というか、(反省を込めて)結構いい歳になってからそれに気付くというのも経験上あります。
      私も社会人なりたての頃は『使われる側』だったので、お気持ちよくわかります。
      仕事は『あげる側』と『もらう側』という絶対的に違う立場で協力しないと遂行できない。どっちがエラいかではなく、因果関係はそうだということなのですが、わかってないボクやお嬢ちゃんが多くて・・・。(^^;)

  4. argusakita より:

    厚労省の動きが素早い。

    日雇い派遣規制を緩和へ 厚労省、収入要件引き下げ(日経新聞)

    収入要件を下げることで日雇い派遣の対象を拡大できるということは、プアな若者や主婦といった労働者層をこの層に取り込む(ある意味”固定化”)ことができるようになることで、底辺層はますます”上に行けなくなる”。

    今日のニュースは、オーストラリアがシリア空爆 Operation Inherent Resolve に参加したことだ。オーストラリアは首相が変わっても有志連合への参加が変わらないということを示したことに大きな意義がある。
    自衛隊もさっさと装備して有志連合に来いとばかりに・・・。

    安保法案なんて世界のほとんどが注目していない。
    そんなことよりも日本の将来を担う若者の雇用・労働の環境が悪化していることに非常に危機感を感じる。(生活者目線なら、安保法制よりもこっちのほうが遥かに現実的なインパクトのある話だろうに)

    • きりたんぽ より:

      移民を入れるための前準備でしょうか、移民を入れれば平均賃金を下げられますからね。
      竹中平蔵は本当に日本の雇用を突き落としますね。

      • argusakita より:

        もし移民を入れることになっても移民にはもっと厳しい条件を提示すると思いますよ。そうでなきゃ暴動が起きる。
        とりあえずは年寄り、主婦、新卒だろうがなんだろうが正規社員になれなかった特別な資格も無いような若い人たち。
        ここがターゲットだろうと思います。

        日本を大部分破壊し、その後立ち直ってくれば・・・それも立派な『経済成長』。恐ろしいシナリオだと感じます。

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