いすゞは見逃したがVWはダメというアメリカ

VWのエミッション・スキャンダルでウィンターコーンCEOがあっさり辞任。ひょっとすると前会長のフェルディナンド・ピエヒ氏(2015年4月に突然辞任)による自爆テロではないかとも言われているが、9月から欧州で始まった『ユーロ6』という大気汚染物質の排出規制に対するアメリカの報復措置とも考えられる。いずれにせよアメリカでの刑事告訴、賠償等でVWは相当なダメージが避けられない模様だ。ドイツにとってはギリシャ危機以上という声もある。


しかし、このエミッション・スキャンダルはVWで自家用車の販売台数も多いため大きく扱われているものの4年程前に日本のいすゞでもほぼ同様の規制逃れ問題があり当時の石原都知事は『企業の犯罪』と言っていた。手法やソフトウェアの何が違うのかが興味深い。
マスコミはあまりこのことを騒がず(TVCMの大口スポンサーだからか?)、アメリカのEPA(環境保護局)も何となく見逃しうやむやになった印象がある。
VWとの資本提携を探っていたいすゞがその後GMと提携していることなどを考えるとなかなか奥深いスキャンダルのようにも見える。(いすゞが技術的にできることを他のメーカーができないわけはない・・・)
今後、アメリカのEPA(環境保護庁)からどんどん中身が出てくるだろうから注目したいが日本のメーカーに火の粉が降りかからないとも限らない。
穿った見方だがいすゞは『フォワード』の件で見逃してもらったかわりにGMと提携させられた、アメリカのVW潰しに結果的に加担させられたと見るのは妄想陰謀論だろうか。

自動車の排出ガス規制に適合させるために動作する排出ガス低減装置・機構(ソフトウェアも含む)の一部又は全部を実際の走行状況にでは『無効化』するとみなされる機能を『無効化機能』(Defeat Device)といい、欧米では自動車メーカー側の意図に係わらず反社会的行為として自動車排出ガス規制に禁止規定が明文化された犯罪である。
アメリカは1963年の大気浄化法(CAA)の1990年改正でDefeat Deviceを禁止しているし、欧州では Commission Directive 2001/27/ECで禁止されている。
ちなみに、アメリカのCAAの1970年改正が有名なマスキー法で、アメリカよりもホンダがCVCCで先にクリアしてしまい世界をアッと言わせたものである。
とはいうものの、アメリカには日本の車検時の強制力を持った排ガス検査制度がないため新車登録を済ませてしまえば後は違法改造してもまず検挙されることはなくザル法であるとよく言われる。欧州でも車検自体は各国あるが強制的に排ガス検査をやっているわけではないので日本がメーカーもユーザーも世界で一番『生真面目』(馬鹿が付くかも)なのかもしれない。
しかし、2011年のいすゞの『フォワード』では刑事告訴も賠償もされなかった。(確か、いすゞは別の名目でリコールしたような記憶がある)
基本的に欧州はCO2排出規制が最上位で、PMやNOxについてはやや緩い印象があった。そのため、アメリカ市場を舐めてかかった印象があり、今回そこを突かれたのかもしれない。逆にアメリカ側としてはいすゞの件は対欧州のカードに温存しておいたのかもしれない。(技術自体はGMに渡ったことだろう)

日本はアベノミクスで今後の国家的な成長産業として4つの分野(健康、エネルギー、次世代インフラ、農業・観光)に重点を置き国家経営のリソースを投入すると産業力競争会議で決定したが、GDPの4%程度を占める自動車産業については特に国家的な戦略を打ち出していない。同様に同程度のGDP比率を持つ住宅産業についても特に戦略めいたものは聞こえてこないのは少子化でこれら2つの国内市場が大きく伸びることはもはや無いという予想を示していると筆者は見ている。
一方、欧州特にドイツでは産業全般に第4の産業革命(インダストリー4.0、Industrie 4.0)を掲げて2011年から政府(連邦、州)、産業界、学界が総力をあげて取り組み、この中で自動車産業は大きな位置づけとなっている。(この単語、日本ではあまり聞かない)
さらに、この包括的なプロジェクトに呼応して(というより得意のパクリ?)支那も今年の5月に『支那製造2025』(made in china 2025)を国務院が打ち出している。
このIndustrie 4.0は、1980年代あたりによく言われたFMS(Flexible Manufacturing System:フレキシブル生産システム)が多品種・少量生産に対応したものだったが、それをさらに進化させ、ネットワーク、コンピューティングパワーによってリアルタイム性を上げ従来のライン生産方式をさらに柔軟にし、顧客の要望や仕様変更に生産ラインごと変更することに耐え得るものにしようという概念で、筆者に言わせればそれほど大きなパラダイムシフトではないためバズワード(buzzword)かなとも思える。
言葉の概念は別として、とにかくドイツは支那の巨大な市場を意識しながらこの国家的なIndustrie 4.0の合言葉の下に走り出している最中である。

アメリカも国家科学技術会議(NSTC)の『国家先進的製造戦略(National Strategic Plan for Advanced Manufacturing)』やGEが提唱する『Industrial Internet』を打ち出しているが、アメリカの自動車産業は日本同様支那の巨大な市場にドイツ車のようにうまく参入できていない。
ただでさえ現状はドイツの後塵を拝している支那市場で、アメリカもこれ以上ドイツさらにそのコピーである支那のメーカーを放っておけないという判断をしたのかもしれない。
ひょっとすると、今回のスキャンダルで刑事訴訟、多数の顧客からの賠償請求でVWは屋台骨が揺らぐ可能性がある。ドイツによる支那の市場独占は絶対に許さないというアメリカの強いメッセージと見るのは考え過ぎか。
残念ながら、日本ではそういった国家的な理念や戦略が見えない。(逆に言うとトヨタの戦略が日本の国家的な戦略にイコールになっているのも現実か)

TPP交渉では関税ばかりが注目され、マスコミもそこしか見ていない風だが、欧州の『ユーロ6』やアメリカ、特にカリフォルニア州(ここは連邦政府より厳しい基準)の排出ガス規制等のようにアメリカはある種の非関税障壁も使うことを忘れてはいけない。また、それらを注目して『勉強』しているのは支那である。PM2.5ですらまともに対処できない現状のため支那での厳しい排出ガス規制は当分先だろうが、自国のメーカー保護のために輸入車にだけ適用するといったことも支那なら十分あり得る。

過去のCVCCの経験からアメリカは、日本に排出ガスの技術的な規制をしてもすぐに器用にクリアされてしまうのが日本だと学習しているはずで、もっと別の強力な対抗策を実施しつつある。
カリフォルニア州では2017年から規制が強化され、エンジンと併用するハイブリッド車(プリウスのような)がZEV(Zero Emission Vehicle)の対象車種から外される。つまり同州でトヨタはプリウスを売ることが難しくなる。販売するためには他社(例えばテスラ社)からZEV排出枠を買うか罰金を払うことが必要となる。テスラ社はZEV排出枠を収益源としている。もしこのZEV排出枠について何らかのネガティブな法律が適用されればトヨタも詰んでしまう。
それを回避する意味でもつまりトヨタはFCV(ミライ)の販売が最重要となる。もしこのFCVについてさらに何らかの環境基準を適用されれば詰んでしまうどころではない。
だからこそ、トヨタは今年早々にFCVに関する特許を公開して自社のFCVをできるだけ早急にデファクト・スタンダードにしてFCVを普及させようとして焦っている。

こうしてVWのエミッション・スキャンダルの背景を見ると日本も決して笑ってはいられない?
さらに、現在は車載マイコンや制御ソフトに関してはルネサスを始めとした日本のメーカーが強く、欧米も含めて世界中の相当部分のシェアを持つものの、TOP3であるルネサス(日本、三菱+日立+NECで設立)、インフィニオン(ドイツ)、フリースケール(米)の中で今は有利なポジションであるものの、ルネサスが使用しているCPUアーキテクチャがARMアーキテクチャ(イギリス)なのは少々嫌な感じはする。またかつての付加価値の低いDRAM価格競争の時と同じような事態を繰り返さなければよいが、国家的なプロジェクトでこの部分を何とかしないと日本の自動車関連産業は完全に欧米の下請けになってしまう恐れがある。

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いすゞは見逃したがVWはダメというアメリカ への2件のフィードバック

  1. きりたんぽ より:

    時間が経つにつれていろいろ明るみに出てきますね、 アメリカが東芝に仕掛けた不適切会計問題を見るとアメリカの謀略国家の正体がよくわかりますね。

  2. argusakita より:

    日本でもこれだけ毎日VWの話題がニュースに出てくるのに石原都知事(当時)がペットボトルに詰めたPMを記者席に振り撒きながら指摘していたいすゞについては『い』の字も触れない日本のマスコミ。
    そんなにCMスポンサーが大事か?
     

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