『文明の衝突』ではなく経済施策の長年のツケ

こちらに戻る便に乗り込む際になかなか目つきの鋭い客がエコノミークラスに並んでいるのが見えて、ひょっとするとスカイマーシャルかなと。
ウィーンでもパスポートコントロールでいつもなら2秒で済むものを珍しくページをパラパラと見られ、警戒体制の強化を感じた。

日本を離れる前は毎日のようにパリでのテロ事件の報道が続いていたが、日本で見ている限りは全くの別世界の話で臨場感は無いが、こちらに来ると空港でのセキュリティチェックや車での移動なども面倒くさくなるだろうなという少々憂鬱な心配は現実になる。


各地でクリスマスシーズンのデコレーションや露店・小規模遊園地なども出る季節なだけにテロ対策とはいっても対策が一層難しくなる季節で、だからといって各種イベントを止めたらそれこそテロに屈したことになるため各国とも頭の痛いところだろう。
日本でニュースで見た警視庁のテロ対策のSAT訓練は思わず吹き出してしまった。想定が全くズレている。テロ対策で1人の犯人が人質1人を取り拳銃1丁で船に立てこもるという踊る大走査線のようなシチュエーションはあり得ないだろう。キチガイによる人質立てこもり事件は従来から時々あるだろうが、テロはそういった事件とは異なる。
日本は銃器の規制が世界で最も厳しい国の一つで、複数犯が組織的に銃器で武装し、繁華街で乱射といったことはまずあり得ない。もし、それができるならとっくにヤクザがやっているだろう。何しろ基本的に武装しているのは警察と自衛隊のみであり、わざわざそれらと正面から対峙するようなバカな真似はしないはずで、もし日本でテロが行われるとすれば、もっと違った形のテロが起きるはずである。
NBC兵器使用や石油・天然ガス備蓄基地や送電線、送・変電設備、水道、ガス、通信インフラ、道路、鉄道への攻撃で十分に社会不安を煽ることが可能だし、結果的にそれらの影響で死傷者が出る可能性もある。
ドローンというテロリストには好都合なものがある現在、いくら法律で飛行禁止などと決めたとしてもアウトローの連中には無意味なわけで、『9条があるから戦争にはならない』と信じることと大差ない。
ドローンを即破壊、捕獲できるようなテクノロジーが追いつかない限り脅威の本質は全く変わらない。これらに対する対策というのはどこまで徹底しているかを身の回りで見ると日本の社会が欧州以上に脆弱なものに見えるのは気のせいではないと思うのだが・・・。

それにしても、今毎日のように見せられているイスラム過激派あるいは原理主義と欧米との『戦争』はかつてハンチントンが書いた『文明の衝突』なのだろうか。筆者にはどうも違うように見える。

1970年代(いや60年代からかな?)から徐々にドイツを中心として比較的穏健なイスラム教徒を(主にトルコから)低廉な労働者として受け入れ始めた欧州は、労働力とその購買・消費だけに目を向けてスウェーデン、イギリス、フランスと受け入れを拡大させていった。
しかし、2000年代になって結局その比較的穏健なイスラム教徒が持ち込む文化、信仰、生活習慣と相容れないものが目立ち始め、各地で衝突が起きるようになった。元々の住民がイスラム教徒を攻撃することに対抗して、穏健だったはずのイスラム教徒が原理主義に回帰し行動し始めることで対立が繰り返されるようになった。経済弱者扱いされる若者がイスラムを逆恨みし始めノルウェーの乱射事件のようなことも各地で起こりPEGIDAやネオナチの台頭などのスパイラルを生んでいる。
結局、スウェーデンのマルモやベルギーのモレンベーク(今回のパリのテロ容疑者連中のアジトがあった街)のような場所を生み出し、2010年ドイツのメルケルは『多文化共生は失敗だった』、2011年にキャメロンも『イギリスでの多文化主義は失敗した』と発言するようになった。現在、欧州ではどこの国の首都が最初にイスラム化するかが話題になっていて、大方が数年後にブリュッセル(いわばEUの首都)と見ている。
そういった状況に加えて今年の難民の急速な大量流入である。欧州全体がパニックになっているのは不思議ではない。
当初、メルケルを中心とした『人道』『道徳』の理想論に押されて一旦は大量に受け入れを容認するかのように見えたEUは一転して各国の国境をそれぞれ閉ざし、受け入れの審査を厳しくし、審査で弾かれた経済移民を強制退去や母国送還を行おうとしている。

強硬な発言をしているのはハンガリーやチェコやスウェーデンだけではない。
先般の選挙で左派政権から右派に思いっきり舵を切り替えたポーランドなどは大臣の何人かは難民受け入れの拒否や、難民を訓練して軍隊化し母国に送り返して自国の問題解決に当たらせろといった発言までしている。(同様のことをしてアメリカが失敗している)
フランスでは、同時テロによってオランドが強硬な施策を矢継ぎ早に進めているが、国民戦線のマリーヌ・ルペン(娘)は父とは違った穏健な右派を演出しながらも国民国家維持、イスラム排斥を訴え支持を伸ばしている。来月の地方選では圧勝するのではないかと言われ、さらに2017年の大統領選ではひょっとすると勝利する可能性も言われている。
ルペン(娘)は8歳の時に自宅を爆破テロで攻撃された経験を持つため、半端な政治屋とは違った説得力がある。ちなみにルペン(娘)は出生地主義の廃止、二重国籍の否定を主張していて、この国籍法の部分は『日本を見習え』とまで言っている。
昨日、アフリカのマリ(フランスが空爆を続けている)でホテル立てこもり事件が起き、フランスはシリアとアフリカの2正面作戦を強いられることになったが、オランド政権は切り抜けられるだろうか・・・。

労働者の賃金を下げるために3、40年移民を受け入れてきた欧州は、本来穏健だったイスラム教徒が欧州の文化、生活習慣を決して受け入れないことにようやく気づき、加えて、本来の各国市民(特に若者の)の経済的不満の鬱積の反動に遭遇している。
今見せられているものは宗教や文化そのものの対立である『文明の衝突』ではなく、経済施策の長年の誤りのツケに過ぎないのではないだろうか?

日本でもイスラム教徒は本来穏健だ、ISやテロ犯は原理主義のごく一部だという主張が多い。しかし、欧州が3、40年かけて行ってきた施策の結果(ツケ)とイスラム教徒はコミュニティを形成し移住先の文化や生活習慣を受け入れない傾向があることが明らかである以上、日本でイスラム教徒を多数受け入れるのは非常に危険な賭けであることは間違いない。

ブログランキング・にほんブログ村へ 
(blog rankingに参加。ご協力を。Click it!)

広告
カテゴリー: 社会・経済, 国際・政治, 海外 タグ: , , , , , , , , , パーマリンク

『文明の衝突』ではなく経済施策の長年のツケ への8件のフィードバック

  1. 秋田の片田舎から殆ど出たこと無い人間ですから国際的なことは全くわかりませんが、日本史では信長の時代に近いのかなと思ってました。武士・大商人グループと水呑百姓を抱えた一向宗の争い。
    信長の比叡山焼き討ちは非難されることが多いですが、それによって日本では宗教から軍事が切り離され戦の種が一つ無くなりました。(その後しばらく続いた刀狩りも関係していると思うが)

    最近ようやく山田風太郎の幻燈辻馬車を読み終えましたが、明治政府の文系開花政策であえて取り入れなかった自由民権について、風太郎氏は冷めた解説をしていました。日本の初期の自由民権運動は、不満分子の集まりで、やってることはテロです。あくまでも幻燈辻馬車の中での自由民権運動ですけど。

    イスラム国関係の問題も、もしかしたら、道徳的・人道的なことだけを行っていては解決不可能な段階なのかもしれませんね。

    • すみません。打ち間違いの修正です。

      文系開花 → 文明開化

    • argusakita より:

      テロで犠牲者が出ているので不謹慎かもしれませんが、歴史でアナロジーするのはなかなかおもしろいですよね。
       
      日本でも秀吉や江戸時代にキリシタンの弾圧、島原では虐殺に近いことをしているわけで、もしキリスト教社会が近くにあって日本が島国でなかったら、十字軍は間違いなく日本にも向けられたと思うのです。少なくとも当時のアジアの他の国々のように未開の地ではなかったわけですから。
       
      東インド会社は貿易だけではなくキリスト教社会の覇権の先遣隊だったわけですから、日本での当時の弾圧や虐殺は当然情報としては伝わっていたはずです。
      本格的に十字軍が日本に向けられなかったのは、海に囲まれた島国という地政学的有利さと同時に現在の原油つまり当時のコーヒー、スパイス、金・銀が日本では彼らの想定する規模で得られないことと日本人を奴隷にすることは困難という判断があったのではないかと想像しています。金に関してはマルコポーロの創作による”ジパング”で相当に煽られていたはずですが・・・。
       
      日本からいわば下手に出たと見られる天正遣欧少年使節こそ実は日本の国難を未然に間接的に救ったのではないかと私は考えています。かといって、日本でキリスト教が爆発的に広まることはなかった。結果を予測して使節送ったのだったとしたら外交センスは驚嘆に値すると思うのです。

    • argusakita より:

      こちらで友人と飲みながら話していましたが、彼(ベルギー人)は難民問題やテロが相次ぎ、このままでは『欧州のイスラム化』が進行するというのですが、私は逆だと主張しています。ICTの発達やTVによるリアルタイムな世界の情報を例え言葉がわからなくても自分の目で子供のころから見ているからこそイスラム世界の人間が欧米や日本に彼らに無いもの、憧れるものを求めて動き始めた。だからこそ、メルケルの世迷言をきっかけにどんどん流れが起き加速している。
      つまり『欧州のイスラム化』ではなく『イスラムの欧米化』こそ現在進行形の現象だと思います。
      ISも中心となっている連中はイラク戦争時にアメリカや多国籍軍の武装や戦闘法を学んだ幹部連中と言われていて、本来のイスラムの戦い方(アフガンのムジャーヒディーンのような)とは異質なものになっている。これもやはり欧米化の側面なのだろうと。
       
      ですから、

      >イスラム国関係の問題も、もしかしたら、道徳的・人道的なことだけを行っていては解決不可能な段階なのかもしれませんね。

      その通りだと思います。部分的な欧米化(欧米カブレともいうべき)を排除するには今は『力』しかない。(共通語がそれしか無いので)
      日本は国として負けたのではなく軍事力・軍事組織が負けたのだと私は思っていますが、それと同様にイスラム(社会・文明)を否定せずにISの戦闘力・戦闘組織を徹底的に叩くべきなのだろうと思います。
      時間がかかりすぎ、手ぬるいながら有志連合やロシアがやっていることは私は支持します。日本も参加していいと思っています。

      • もしかしたらジェノサイドしか解決の方法がないかもしれないとは私も思います。でも日本史上でジェノサイドを行い宗教から武力を分離した信長に対して、魔王と毛嫌いする人もいます。

        信長がジェノサイドを行ったのはそうしないと自分が滅ぶ(恐怖に駆られた)からだと思います。

        今のところ、日本は後方から応援する程度なら仕方ないと思いますが、中国・韓国の防波堤役があるので、それを理由に本拠地には行かないほうがいいように感じます。イスラエルや、ロシア・ヨーロッパに頑張ってもらうほうが(多分彼らには直接の利害がある)いいと感じます。

        • argusakita より:

          結果的なジェノサイドは欧州では容認されそうな気がします。コソボで経験済みですし。
          ロシア、フランス、イギリスはアメリカと事前にネゴしてシリア領内のISに対して戦術核を使用するかもしれないという観測もありますが、ひょっとするとひょっとする事態かもしれません。
          日本に原爆投下をしたのと同じ論法がまかり通るかもしれませんね。

          日本のニュースでどれぐらい伝えられているかわかりませんが、ベルギー・ブリュッセルやフランス・パリは厳戒態勢のようです。経済的にもいつまでも続くとは思えないので、何か大きな一手を打つのがどの国かという感じでしょうか。

          靖国で小規模爆発だそうですが、ISのテロに便乗した朝鮮人(あるいはそのシンパ)なんてことはないでしょうかね?
          疑うに十分な悪戯をあれこれやっていますから。まあ、予断は不謹慎かもしれませんが・・・。

  2. ブルーベリー より:

    中世は、イスラム側は海賊行為で地中海を荒らし、キリスト側は十字軍で反撃。
    現代は、キリスト側は中東をオモチャにし、イスラム側はテロ行為で反撃。
    長い歴史から見れば、構造は変わっていないと感じています。

    一神教は他の神を認めないのが大原則で、本質的に融和しません。
    特にイスラムはその傾向が強い。
    イスラムを入れた国はテロや内戦に苦しんでいます。

    • argusakita より:

      >イスラムを入れた国はテロや内戦に苦しんでいます。

      そう思います。マレーシアやインドネシアは近いうちにシリア同様になると私は予想しています。
      サウジやUAEの長年の責任だろうと思いますが。

コメントは受け付けていません。