『大きすぎて潰せない』が結局は日本経済に悪影響

ここ数日、SHARPの鴻海による買収劇の成り行きを見ているが、偶発債務の発覚で買収契約の延期ということで、妙な話だなと感じている。
偶発債務とは筆者のようなマイクロ企業でも大げさに言えばあるもので、退職金や他社との契約に関する違約金、政府や自治体による補助金の返還などの可能性に関するものだろうが、大企業になればなるほどそれらの金額は大きくなり無視できないもののはずだ。


しかし、債務超過状態で2015年3月期決算の自己株式調整済み負債比率が32.82と自社の資産に対して負債が約32.82倍もある状態の企業を買収しようと考えるなら、そんな偶発債務の可能性を事前に調べるのが当たり前で、鴻海が単に金にモノ言わせて単純に『SHARP買うアルよ』と言ったとは考えにくい。逆にSHARPが政府系ファンドの産業革新機構とも交渉をしていることから考えてSHARP経営陣がそれらを隠蔽していたとも考えにくい。
主力銀行のみずほと東京三菱UFJが銀行の負担の少ないほうの鴻海を推したのはビジネスとして当たり前(メガバンクに愛国心など無い)で、いくら役員を派遣しているからといってそれらの情報を意図的に鴻海に伝えないのでは犯罪的である。

SHARPといえば、我々の世代では家電以外に『クリーンコンピュータ』MZシリーズやX68000シリーズなどパソコン黎明期の勉強ではずいぶん世話になったし、学生時代から社会人にかけては『天才電卓ピタゴラス』にもずいぶん世話になった。当時、逆ポーランド記法のHPのコキコキ鳴る電卓で関数計算をしていたときにピタゴラスを手に入れ使いやすさに感動した記憶もある。
また、液晶TVの亀山モデルやAQUOS携帯(ワンセグが好きな相方などは未だにこれを愛用している)など日本人のナショナリズムをくすぐるようなものを世に出し、総合家電業界でも特色ある企業だったように感じる。欧州でもSHARPの携帯はNOKIAやサムスンが席巻している中でもついこの間までは最高級品でガラスケースに入って展示されている高価なものだった。
そのSHARPが何故凋落してしまったのかについては様々な理由がありそうだが、要は長く続いた円高で南朝鮮他の競合に負け輸出が落ち込み収益の柱が無くなったのが大きいだろう。技術力ではなく円高に追いつけなかった企業の代表のような印象だ。

東芝の粉飾決算問題でも書いたが、いわゆる世界システム論の単線的発展段階の『製造』から『金融』に移行していけなかった企業の末路である。イギリスの製造をアメリカが奪い、アメリカの製造を日本が奪い、その日本の製造がアジア諸国に奪われることは自明だった。にも拘わらず、善し悪しを別としてこの流れの中でどうして日本の企業だけが例外として製造段階で存在し続けると考えたのかが筆者には不思議でならない。
確かにSHARPも連結で4万人強の従業員を抱え、子会社や関連会社の従業員とその家族を考えれば100万人にも届くかという影響範囲で簡単に潰れてもらっては困るが、税金を投入してまで守る国益は全体の一部に過ぎない。(例えば先進的な液晶技術の研究開発部門)
そもそも1億2千万の日本に大手の総合家電メーカーが8社も存在することが極めて異常な状態で、半分以下になっても全く不思議ではない。
100均で電卓を売っている時代に、教育水準の高い日本なら誰もが『ピタゴラス』を必要とすると考えるほうがどうかしているし、亀山モデルが一家に10台必要になることなどあり得ない。ましてや教育水準がまだまだ発展段階の日本以外のアジアに輸出して沢山売れると思うこと自体あり得ない。ましてや円高である。

SHARPも東芝もあるいはPanasonicやSONYも結局は大きくなり過ぎたのだろう。
企業規模が大きくなるということは売り上げの金額も大きくなり、いわゆるスケールメリットが享受できることだが、何しろ従業員を大勢抱えることになる。その家族も含めて万が一の場合にはそれらが人質同然となる。
このことで取引先の金融機関や場合によっては自治体や国が座視できなくなる。製造業の場合にはこの構図が顕著で、経営者が大鉈を振るわない限り改革は難しい。
大手企業のサラリーマン経営者が無難に過ごすためには、企業規模をさらに大きくし簡単には潰されない方向に持っていくだけだ。
Too Big to Fail大きすぎて潰せない。この論理がまかり通るため、現在、大企業はM&Aを繰り返し、やたらホールディング会社の形態を取ろうとするのである。
あるセクターの業界3位と4位が合併して1位になったりするのは近年珍しくなく、あの会社の前の名前何だっけ? といった具合になるのである。
これは製造業だけではなく、金融でも同じだ。
かつて東京海上は損保で断トツのトップで筆者たちの時代の文系の就職先として人気だったが、現在は東京海上日動火災保険となり業界3位、東京海上ホールディングス株式会社の傘下であり、この東京海上ホールディングス株式会社ですら三菱グループの1企業にすぎない。

無論、スケールメリットの追求と同時に『潰されない規模』を目指す大企業の論理は日本だけではなく、アメリカのリーマンショックのときも同様だった。
しかし、アメリカの連邦政府はリーマンショックの際にリーマンブラザースやGM、クライスラーといったアメリカを代表する企業を倒産させた。その後、GMやクライスラーはすぐに再建している。
アメリカは確かに日本と違って失敗を失敗として認め、その後立ち上がることのできる企業風土や社会風土があり、日本のように一度の失敗がずっと後を引くような社会ではなかなか真似ができない。
しかし、やはりアメリカのこういったダイナミズムは少なくとも企業社会では取り入れるべきで、そうしない限りベンチャーなどが入り込む余地は少なくひいては経済の活性化が進まないことになる。

日本の経団連などは大企業の論理として未だにスケールメリットの追求と同時に『潰されない規模』を目指す方向を向いているため、独禁法にことあるごとに反対の立場だ。
しかし、負債比率が32.82にもなるような企業を延命させる、下手をするとどこかに公金を投入されるようなことをしていては、いつまでたっても業界&所管官庁による護送船団方式では日本経済など成長するわけがない。まるで植物状態の年寄りを延命させているようなものだ。
筆者も社会人になったときは大企業の一員だったため、あまり悪口は言えないが、国益に直結するような重要・核心技術や将来のメシのタネになるような未来技術の部分は、有識者による判定をさせ、その部分は公金で保護する等のスキームを作り、残りの不採算部分は経済合理性、経営判断でバッサリ落とし、再建させる方向を目指すように日本の大企業も変わっていく必要があるはずだ。

一旦潰して再建させるべきだ、東芝もSHARPも。

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『大きすぎて潰せない』が結局は日本経済に悪影響 への6件のフィードバック

  1. ブルーベリー より:

    シャープの自己資本は1600億円で、偶発債務の3500億円が顕在化すれば、完全に債務超過。

    交渉が進み産業再生機構が降りてから、偶発債務リストをメールでシラッと送るなんて悪質ですね。
    ホンハイ側が激怒するのは当然です。

  2. 経済のことは全くわからないが、私がシャープの経営者なら、国の政策には乗れません。粉飾決算の東芝と組むのはとてもとても。

    個人的には、ノートパソコンはダイナブックを使っているので東芝にはもう少しパソコン事業は頑張ってもらいたいところなんですが。

    でも国の方針をニュースで聞いたとき、粉飾決算があっても、原発事故処理をしている東芝を潰すわけに行かなかったんだろうなと、理由も何もない妄想が沸き起こったりしました。ですから、シャープの経営陣なら、関係ないのに原発処理に駆りだされかねない国の計画にはますます乗れないでしょうね。

    ということで、間違っているかもしれませんが、私はシャープの経営陣の選択は当然だと感じています。

    • argusakita より:

      原発関連はGE関連は古い情報などが東芝を通じて必要かもしれませんが、汚染水処理ではアメリカのEnergySolutions社とフィンランドのFortum社が重要ですから日立あたりが頑張れば東芝は無くてもいいという判断もあるかもしれません。

  3. argusakita より:

    現在のSHARPの役員は銀行からの出向者が半数ほどだそうですから、銀行のディールとしては自分たちの融資の焦げ付きが緩和される(鴻海の場合1,000億で機構の場合2,500億だそうです)選択肢を取るのは至極当然だろうと思います。
    銀行主導で鴻海を垂らし込んだのか知りませんが、政府のpushに銀行シンジケートがウンと言わなかったとしたら、今後メガバンクにはそれなりの報復を金融庁あたりがしそうな予感がします。
    東京三菱UFJが行内で仮想通貨の構想を進めているのもきっと銀行法を盾に待ったをかけるかも・・・。でも三菱だからなぁ・・・。
    日本のFintechはこの件でまた遅れる要素が増えたかもしれませんね。

    私も90年代からダイナブック(わざわざアメリカから輸入して使っていました)がほとんどでした。installできないOSは経験が無いくらいフラットで良いPCでした。最近のはデザインも含めて酷いものです。SHARPのメビウス並になってしまいました。残念。

    SHARPの財務状況は2015年3月期で、短期借入金、長期借入金、そして社債の合計金額が純資産の84%でしたから、偶発債務など無くても債務超過は間違いない印象です。

  4. ブルーベリー より:

    <シャープ> 買収契約遅延…4月以降か 鴻海、業績見極め
    シャープが24日に3500億円規模の潜在的な債務のリストを急きょ提出したことを問題視。
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160319-00000004-mai-bus_all

    不都合な情報を隠していたのだから、鴻海が不信感を抱くのは無理も無いことです。
    東芝の粉飾と共通する体質を感じます。 なぜ後でバレる嘘をつくのでしょうか?
    白紙撤回も有り得るでしょう。

    • argusakita より:

      ウィーンに戻る機中であれこれニュースを見ていましたが、SHARPの問題は長引きそうですね。ひょっとするとご破算かもしれませんね。

      SHARPもそうですが、東芝を巡る問題は全く酷いものです。
      証券取引等監視委員会が田中前社長を任意で事情聴取し刑事告発を視野にいれているそうですが、証拠を奇麗に隠滅した頃になってようやく動いたかと。プロレスでしょう。

      家電部門を支那の美的集団に売却だのキヤノンにメディカル部門の売却だそうで、後者はペーパーカンパニーに売却して独禁法を免れる露骨な手法。
      このMSホールディングスというペーパーカンパニーは、宮原賢次(住友商事名誉顧問)、吉戒修一(弁護士・元東京高等裁判所長官)、横瀬元治氏(公認会計士、元あずさ監査法人専務理事)が取締役。
      ここが一旦東芝メディカルの議決権を保有する状態にして、後でほとぼりが冷めてから子会社化するというスキーム。
      富士フイルムが怒って当然。

      一方では三重の半導体工場に3,600億円投資で、銀行シンジケートは月末は柔軟に対応とか。
      大企業なら何でもありだとばかり、こんなことを日本の社会が許していたら、日本は相変わらずの護送船団方式でオープンではないというレッテルを貼られてしまいます。

      SHARPや東芝は国益に資する重要な技術部門は一旦国有化するなりして、さっさと退場させるべきだと思います。長い目で見たらそれが日本の企業社会、経済のためでしょう。

      月末から4月にかけては、アメリカのシェール・ショックが来るでしょうし大きな株安と円高が来そうです。
      消費税upは凍結、衆参同時選挙は決定でしょうね。

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