憲法改正と国民投票 ~イタリア~

筆者の知る限りでは先進国で一番近い将来、憲法改正に伴う国民投票を予定しているのはイタリアである。
10月に行われるこの国民投票は、上院の定数削減と権限縮小、つまり上下両院の立法権等を同等から下院優位にするかどうかと地方自治体の単位『県』の廃止の是非の審判になる。


イタリアは上下両院が法案審議や内閣不信任決議などで同等の権限を持ち、これは欧州で唯一とされる。
上院定数315、下院定数630という大所帯の国会がイタリアの特徴なのだが、現首相レンツィが今年の5月に『国会議員が多すぎる、世界で最も費用がかかっている』(筆者の概算では日本のほうが総額は多い)と訴えたことが10月の国民投票につながったものだが、国会改革は2013年の総選挙でいわゆる上下両院でねじれ状態が起き、このことがただでさえ不況や内政の課題(例えばローマやベネチアのゴミの山の問題)が解決できない原因だと国民も認識し始めたことが大きいと思われる。

Italian Premier Matteo Renzi speaks at a press conference at Chigi Palace in Rome, Friday, June 24, 2016. Renzi said that he respected Britain's vote to leave the European Union, adding that "Now the page turns". (Angelo Carconi/ANSA via AP)

Italian Premier Matteo Renzi speaks at a press conference at Chigi Palace in Rome, Friday, June 24, 2016. Renzi said that he respected Britain’s vote to leave the European Union, adding that “Now the page turns”. (Angelo Carconi/ANSA via AP)

そもそも、この上下両院の立法権他の同等はムッソリーニによるファシズムの経験と反省から生まれたものらしく、この国民投票による改正(変更?)はイタリア版『戦後レジーム』からの脱却とも言える。
ねじれ状態によって政権樹立が困難になったり法案審議に時間がかかり過ぎるというマイナスを回避したいというのがレンツィの思惑なのだ。
改正案の骨子は上院の定数を315から100に削減、議員も公選ではなく州議員・市町村長の代表と大統領の任命とするもののようだ。また、上院の法案審議は憲法関連法案に限定され、内閣不信任案を決議できるのは下院だけとするものだ。

上下両院が同等の権限を持たないという意味では日本でも衆議院の内閣不信任決議案(効力有り)と参議院の内閣問責決議案(効力無し)や予算成立の要件のように同等ではないが、日本ではなんやかんやと参議院の存在理由をこじつけて、結果、長い間ねじれ状態による弊害が様々な問題を山積みのままにさせた(と筆者は確信している)。
イタリアのように上院(参議院)の権限を大幅に制限し、人数も少なくても良いと思うし、今回の参議院選挙を見ても、政治屋を選ぶというよりも政党・会派の国会での1票を選ぶに過ぎないのであれば、政治よりもモツ鍋屋事業に熱心な元野球選手をわざわざ選び6年間の餌代を血税から出す必要は全く感じない。選挙自体が無駄遣いと思えるほど日本の政治はおかしくなっている。
地方の代表として知事・県議会議長の兼務くらいで定数も94(47×2)+αくらいで十分だろう。タレントやアスリートなど不要だ。

この憲法改正と国民投票を急ぐ背景には、イタリアが法案審議のスピードをあげ、同時に国会議員の報酬を節約し、内政に取り組まないといけない事情がある。それはイタリアの銀行の不良債権問題だ。
イタリアの銀行債務問題は以前から燻っていて、不良債権比率が40%弱と増大しているギリシャ程ではないが(ギリシャはもう政府も民間も死に体同然)、2015年末で20%弱(GDP換算で約1/4)とジワジワ来ている。7月末にECBによるストレステストの結果公表を控えているが、見込みは非常に悲観的のようだ。今のままではギリシャのようになることを政府も国民も十分わかっているはずだ。

かつての日本のバブル処理同様、大手行の資本不足に対して政府による公的資金注入が期待されるが、EUのルールとして公的資金を注入する前に、銀行の株主や債券保有者などが銀行負債の8%相当の損失負担(Bail-in、ベイルイン)を求められる。イタリアは個人投資家が銀行債を多く保有しているため、昨年末に一部の銀行でこれを適用した際に個人投資家(多くが年金生活者)の自殺が相次いだ。そのため、この破たん処理スキームは現実的には極めて困難だ。犠牲者が出ないと国が動かないのはいずこも同じ。
そこでイタリアはこのEUのルールの例外を求めているが、ここでもドイツが猛反対している、というよりもドイツ銀行他の金融機関とそのロビーイングで動くEU官僚だ。

EUはとりあえずイタリアの銀行が発行した債券の保証をすることにしたが、これは問題を先送りするだけで不良債権問題がますます悪化することは間違いなく、坂道を転げ落ちていくようなものだ。
こんなシナリオを描いたのが例によってEU官僚である。

イタリア政府は景気浮揚のために外国からの投資を呼び込みやすい法律を作りやすくしたい。結局、そのための憲法改正、下院優位にするための10月の国民投票なのである。
Raggiレンツィ首相はこの国民投票に政治生命をかけている(=信任投票に近い)。
国民投票で信任が得られなければ退陣、総選挙だが、もし、先般の(美人)ローマ市長(ヴィルジニア・ラッジ)の『5つ星運動』(あるいは連立)が政権を取ると、この銀行債務問題の解決(問題先送り)のシナリオを描いたのがEU官僚であることがわかっている欧州懐疑派は機を逃さずにEU離脱方向に動くだろう。
先般ローマ市長に就任したラッジが早速ステップアップして新首相というシナリオもまんざらあり得ないことではない。ここも『女性の時代』になりそうなのだ。(G7は日本とカナダ以外は女性になりそう)

イタリアの憲法改正・国民投票については手順やその内容(改正点)は日本からもよく観察する必要がありそうだが、それを行わさせている切羽詰まった事情とそのシナリオを描いているEU官僚はなかなか恐ろしい存在であることは確かだ。
イタリアがGDPで世界で8番目という経済規模で破綻時の影響は大きいからという理由もあるだろうが、現在問題になっているスペイン、ポルトガルの財政赤字のペナルティを決めたのもEU官僚である。
こちらに対しては経済規模がイタリア程ではないせいかEUの『財政赤字をGDP比3%以内に抑える』というルール違反に対するペナルティ(最大でGDPの0.2%の罰金)を適用する見込みのようである。
一見、イタリアには甘い対応をし、スペイン、ポルトガルには厳しいのでは大衆の反発は容易に造像できる。
ペナルティが適用されれば、当然ながらスペイン、ポルトガルでも欧州懐疑派がEU離脱に動きそうで、やはりEU解体に向かっていきそうな印象がある。
EU結束を訴えるメルケル他の政治家とは逆に結果的にEU解体に向かう方向に進めているのは実はEU官僚(と、おそらく巨大な金融機関)だったりするのが見ていて滑稽でもある。

日本もいよいよ両院で憲法改正の発議可能となったのだから、さっさと動けよといいたいが、筆者としては9条(既に解釈改憲で大体OK)などよりも国と地方の統治機構あたりを改正して欲しい。さもないと地方創生などは夢に終わり、相変わらず首都圏一極集中のリスクを抱えたままになる。
また、理想的には現憲法改正ではなく、現憲法破棄&新憲法制定というアプローチが真っ当だろうが、残念ながら筆者の生きているうちは実現は無理だろうな・・・。

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