パラリンピックの後はサイバスロン(Cybathlon)

2年程前にアナウンスされていたスイス国立科学財団(SNSF)配下の国立研究支援センター(NCCR)スイス連邦工科大学(ETH Zurich)主催の第1回サイバスロン(Cybathlon)が10月8日にチューリヒで開催される。
これは、最先端のロボット工学や生物機械工学技術などによって能力を拡張された障害者アスリートのための国際大会で、パラリンピックがどちらかといえば障害者の人間の能力重視に対してサイバスロンはもっと機械寄りと言える(無論主体は人間だが)大会だ。
日本からは、下記のように3チームエントリされている。
株式会社メルティンMMI(電通大発のベンチャー企業)
脳からの電気信号で動く筋電義手とバイクレース
和歌山大学サイバスロンプロジェクトRT-Movers
パワード車椅子(4輪独立駆動)
株式会社サイボーグ
パワード義足
それぞれが、単なる研究ではなく商品レベルを目指していることも特徴的である。


Meltin MMI今回は6部門に分かれた各競技のようだが、個人的に予想していたよりは遥かに多くの国からの参加があるようで、アジアからは日本以外にタイ、香港、南朝鮮のチームがエントリしている。
しかし、開催に関するフライヤー(PDF)を見るとわかるように、今回は日本企業のスポンサーは残念ながら皆無である。
Meltin MMI2日本のロボティクスは多関節型産業用ロボットの世界4大メーカーのうちの2社(ファナック、安川電機)の実績が示すように定評があり、HONDAのASIMOや最近のヒューマノイドなども話題になるなど各分野ではそれなりに先端を走っているのだが、3.11以降の原発事故の作業で使えるロボットが日本に無かったことで大いに世界をガッカリさせた。ロボット大国のはずの日本が極限作業用ロボットでは実用的なものが全くダメだったことは日本人もショックだったのではないだろうか。尚、多関節型産業用ロボットはアメリカのユニメーション社が元祖で川崎重工がユニメートというロボットをライセンス生産したことから始まった。

xiborg何故、あんな無様なことが起きたのかは明らかで、2001年の中央省庁再編に伴い、通産省工業技術院配下の多数の研究機関が行政改革によりまとめられ、ロボティクスの研究拠点だったつくばの機械技術研究所が産業技術総合研究所に統合され、ヒト・モノ・カネが縮小されたことが最大要因である。
また、もし1983~1990年の国の『極限作業用ロボット』開発プロジェクトがP/W Ratioが劇的に改善され、CPUパワーも格段の進歩がある現在まで継続されていたなら、高放射線下での作業用ロボットはある程度日本が自前で用意できていたのではないかと筆者は考えている。
さらに『極限作業用ロボット』はある面で軍事用となる要素が多かったため、日本では軍事関連の研究を自制する暗黙の了解のせいで大学等も参加しにくい(できない)状況があった。

今回のサイバスロンは、極限作業用ロボットのようなオートノマスなものとは違ってマン-マシンシステム(人間と機械の協調型)だが、ターゲットが障害者(あるいは老人)であり、脳や筋肉の信号を利用して人間の能力のアンプリファイアがされるものなど、超高齢化かつ『長生きのためなら死んでもいい的な』年寄り達も多い日本ではもっと以前から研究・開発されていてもいいのだが、なかなか商品化レベルにならないこともあり地味な分野だった。

秋田大学にも1990年前後、下半身不随の障害者の両足に電極を多数埋め込み、ゆっくり歩行できるまでにした研究があったが、当時それが『人体実験』に当たるのではないかという声が出た途端、研究は中止、研究者は(確か)名古屋大学に異動(別の研究に従事)になってしまった。(異動の理由は無論それだけではないが)
科学はどこかにジキル&ハイドの要素は必ずある。しかし、大切なのはその下半身不随の障害者が数歩ゆっくり歩けたときに涙を流して喜んだことだったはずで、研究の透明性・公開性が確保されていれば様々な議論に対抗出来たはずだが、それができなかったのは田舎の三流大学の研究・管理体制と学長や学部長のヘタレが原因だったと筆者は今でも思っている。
論文をどんどん出せていれば、科学としての議論や倫理問題に対抗できたはずだが、実験に時間を取られた研究者のラボはスタッフが少なく、データをまとめ論文を書く時間が取れなかったのだろうと推察する。

また、1990年代半ばくらいに秋田市には某民間企業の研究機関でロボティクスの研究・開発に従事していた人物とそれを知っている民間出身の『監』が県庁に居た。しかし、当時の知事や役人達はそういった機械・電子系には全く造詣・理解の無い人物ばかりで調査事業すら少ない予算(消化)で終わった経緯がある。今は、その人物も『監』も首都圏に戻っている。

安倍政権が進めるイノベーションにはiPSや薬品といった医療分野や医工分野が柱の一つになっている。
その分野で秋田県がイニシアチブを取れるかどうかは不明だが、大勢の年寄りや介護対象を抱える秋田県は少なくとも研究・開発のフィールドとしては十分過ぎるくらいだ。
サイバスロンに参加する国内3社以外に世界のどんな企業・研究機関がどんなものを目指して研究開発をしているかを知るだけでも十分有意義ではないか。
県の若手職員数人をチューリヒに視察派遣するくらいの予算は何とかなるのではないか?
エコノミーなら往復航空券は10月初めなら4万円代からあるだろう(^^)。


Grover-Washington-Jr-Winelight今日の一曲
1980
Grover Washington Jr. “Winelight”(Album: Winelight)
“Just the Two of Us”でフュージョンのジャンルでは世界的なヒットだった。お洒落なバーなどではWinelightがよく流れていた。


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パラリンピックの後はサイバスロン(Cybathlon) への2件のフィードバック

  1. >3.11以降の原発事故の作業で使えるロボットが日本に無かった
    おそらくアトムに憧れて科学者になった人も居るだろうこの日本で、この事実は残念なことですね。

    ただ、原子炉内ではコンピューターが誤動作するので、日本以外でも結構難しいんじゃないかなと感じます。ウィキの放射線の脚注の39番に、
    >放射線は生物だけでなくコンピューターにとっても有害であり、コンピューターは放射線を浴びることによってソフトウェアがエラーを起こしたり、半導体としての機能が失われたりする。人工衛星は宇宙空間で被曝することを前提として高い放射線耐性のあるシステムで作られている。ロボットが放射能漏れを起こしている原子炉内部で作業する場合にはコンピューターが放射線で破壊される危険があり、特殊な放射線耐性を持った電子機器でなければ正常に動作できない。
    と書かれています。

    ミグ戦闘機で日本にソビエト軍人が亡命した事件がありましたが、ミグ戦闘機が真空管を使用していたことでソビエトの技術が低いと言った評論家が結構いましたが、放射線障害に強い真空管をあえて使ったという説もありましたね。でもコンピューターを真空管で作る訳にはいかないし、・・・・。

    • argusakita より:

      >原子炉内ではコンピューターが誤動作する

      その通りです。
      当時、プロジェクトの末端にいたのでいろんな情報がありました。
      通信も電気信号ではなく光ファイバーでの光通信でしたし、半導体を守る技術のため重量が重くなり・・・。
      強いガンマ線下に普通のカメラの光学レンズを持って行くと瞬時に擦りガラスのように曇ります(内部の金属分子のせいですが)。そのため非常に純度の高い二酸化ケイ素のレンズを開発といった具合に細かな部品そのものから全部開発する感じでした。7年やそこらで終わるはずがないのです。

      東電の肩を持つわけではありませんが、このナショナルプロジェクトには電力会社も大きな予算を負担していて、実は『いつか』に備えていたと思います。
      バブル崩壊も影響していますが、科学分野の行革をやった政治家・役人は死刑でいいと今でも思っています。

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