総務省はどこに顔を向けているか

総務省が進めるTVのネット同時配信が、結果的には、
・民放の広告収入に頼るビジネスを直撃
・民放地方局切り捨て
・地上波やBSしか視ない視聴者を切り捨て
に繋がることは明らかだが、最近の総務省の動きはイマイチ理解しがたいものがある。


クールジャパンの一環で良質で海外に輸出もできるようなコンテンツを目指すなら、NHKや民放の低レベルな(CM広告を見せるだけが目的の)番組が淘汰されるような誘導をすべきで、そのためには過剰ともいえるキー局のいくつかを潰せば良いし、NHKの構造改革(制作と放送の分離等)をすべきなのだが、相変わらず電波オークションはせず海外に比較して数十分の一の滅茶苦茶安い電波利用料を変えようともしない。
takaichi2一方ではNHKに対して受信料の値下げを要請するような高市総務相の発言をしたり、NHK会長のネット配信の視聴者からも受信料を徴収するといった発言に対してさほど明確な反対の姿勢も見せない。どこか一貫性を感じないと思うのは筆者だけだろうか。

電波利用料に関していえば、少し前に高市総務相が偏向報道に対して電波停止もあり得ると発言し、野党から言論弾圧だと厳しく批判され、テレビ業界も多少反発したものの、高市総務相の強気発言に面と向かって対抗するキー局トップなどは皆無だった。それは、民放各局は滅茶苦茶安い電波利用料のおかげでビジネスが成り立っている現実があるからで、これを海外並みにした場合、日本のキー局は2つ程度になるだろうとも言われている。そのビジネス上の弱みを総務省に握られている故である。

電波利用料は電波法に基づき総務省が無線局の免許人から徴収する料金のことであり、平成26年度の総務省発表の実績では、全体で678億8,900万円だが、そのうちTV・ラジオ局からの徴収額は61憶6,600万円とわずかに徴収額全体の9.1%に過ぎない。
一方、携帯電話は、包括免許(310億弱)と広域専用電波(250億強)を合わせて560憶1,180万円で全体の82.6%を占める。つまり日本の電波利用料は携帯会社が8割以上負担しているのである。
海外の先進国(OECDの趨勢と言ってよい)では、電波利用料は電波オークションによるところが多く、これはテレビ各局が競い合い、最も高値をつけた局が電波を利用できる仕組みで、日本でも電波オークションによって料金が決まるようになれば、電波利用料は今の100倍以上になると予想されている。オークション導入にしたら歳入が劇的に増える(テレビ局が潰れなければ)という声もある。

TV・ラジオが優遇され過ぎで他国より高い料金を強いられている携帯ユーザは怒れ!!

電波オークションは国の歳入が増えることや、事業者選定の透明化にこれほど有効な制度は無い。しかし、この電波オークションへの法改正を2013年に潰したのは自民党である。
時の権力がメディアを抑えておくことはヒトラーを持ち出さずとも常識ともいえるが、日本の場合、これを有無を言わせぬ法律、即ち新聞メディアには日刊新聞紙法(日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律)、TV・ラジオには放送法、放送事業法、さらにこれに基づく電波利用料で完全に牛耳っている。
一方で、メディア側はこれらの法律のおかげで倒産することはまずあり得ないため、ジャーナリズムを振りかざして真剣に政権に盾突く馬鹿はいない。
相互にもたれかかった温い図式を作っているのだ。

政府・総務省が新聞とTV・ラジオという既存メディアを最終的には100%コントロールできる仕組みは上記の法律と電波利用料であるが、これがインターネットの普及によって揺るぎつつあるのが現状。インターネットは公序良俗に反しない限り現状では政権がコントロールできるとは言い難い。また、コントロールできるのはあくまで個人や組織といったネットユーザーであり、インターネットの『仕組み』をコントロールするのは日本に限らず国家権力では不可能だ。通信傍受はコントロールとは言えない。

そのため、もし新聞やTV・ラジオというメディアがネットに置き換わってしまっては政権としては非常に都合の悪いことになるのである。
015このもしかしたらという部分に光を当て、既存メディアの(政権を含めた)支配構造に挑戦したのが2005年に起きた村上ファンドやライブドア・ホリエモンによる『ニッポン放送買収事件』である。結局は村上ファンドやホリエモンは買収に失敗し、政権のコントロールの効かないネットを駆使した巨大メディアを手に入れることに失敗したが、これは企業間の経営権を握り金儲けをするという単純な問題ではなく、メディアの支配権を政権ではなく純粋に民間に持ってくることを絶対に許さないという政権側の明確な意思表示だった(と筆者は理解している)。

murakami株式を巡るこの凄まじい闘争劇は記憶に新しいが、最終的には、ホワイトナイトとされたソフトバンク・インベストメント(SBI)が乗り出して幕を下ろしたが、このSBIの動きは政府機関の意向を組んだもので、その後のソフトバンクグループの動向を見るに何らかのバーターがあったのだろうと筆者は推察している。
メディアと政権はもたれかかった構図である一方、その秩序を変える力は徹底的に排除するメカニズムも持っているのだ。
さらに村上ファンドやホリエモンのように支配構造に盾突いた者はそのビジネス上の失敗だけで終わらせず、粉飾決算やインサイダー取引等の『よくある話』で逮捕、有罪判決、ホリエモンは懲役実刑となり、見せしめにされた。
筆者に言わせれば、東芝の粉飾決算で逮捕者が出ない、キヤノンによる東芝メディカル買収でも逮捕者が出ないのは、彼らの場合は単にビジネス上のものであり支配構造に盾突くものではなかったことが『ニッポン放送買収事件』の登場人物・企業とは異なるだけである。

結局、総務省すなわち政権がメディアに対してああせいこうせい、方針を示すのは国民の利便性や経済的なメリットのためではなく、政権や体制の維持が究極の目的であり、その道具としてのメディアを活かさず殺さず置くことが政権側に最もメリットのある状態なのだという、ごくごく当たり前に知られている結論が出てくるだけなのである。


tete-a-tete今日の一曲
1982/4
Art Pepper & George Cables “Over the Rainbow”(Album: Tete-a-Tete)
ジョージ・ケイブルスとのデュオ・アルバム。この1か月後のアルバム『Going Home』がアートペッパー最後のアルバムとなる。スタジオ録音だが、曲の終わりの二人の笑い声が印象的。スタンダードの名曲。


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総務省はどこに顔を向けているか への8件のフィードバック

  1. ブルーベリー より:

    日本は規制が異常に多いですね・・・・
    世界中に広まっているウーバーや民泊すら法律で規制されている。

    日本のマスコミは偏向報道ばかり・・・・一番癒着が酷いのはサキガケ新聞ですけどね。
    秋田県の惨状を見れば明らかですが、
    競争がなければ競争力が育たたず、外資に喰われるだけです。

    • argusakita より:

      全くです。
      国交省の指導で一社何台と台数制限に従うタクシー会社と業界の秋田市。社会主義ですか?と。

      競争を仕掛けられたら受けて立たなければ静かに見えないところで喰われるだけ。表に出して透明性を確保して闘えば簡単には喰われないし、相手を喰うチャンスもある。
      TPPに限らず、そういう時代なのにいつまでも現状維持に拘れば自滅のオプションしかありません。

  2. いつも愛読させていただいています。済みません、お聞きしたいのですが、なぜ

    「携帯電話は、包括免許(31億弱)と広域専用電波(25億強)を合わせて56憶1,180万円で全体の82.6%」となるのか、このくだりの数字が理解できません。

    全体で678億8,900万円の利用料に対して56憶1,180万円ならば8.26%だと思いますが。

  3. 早速のご返事有難うございました。

    >株式を巡るこの凄まじい闘争劇は記憶に新しいが、最終的には、ホワイトナイトとされたソフトバンク・イ>ンベストメント(SBI)が乗り出して幕を下ろしたが、このSBIの動きは政府機関の意向を組んだもので、その後のソフトバンクグループの動向を見るに何らかのバーターがあったのだろうと筆者は推察している。

    たしか、何GHZ帯(詳細忘却)の携帯電波割り当てを優先的に(独占的に)回してもらった、という記事を読んだことがあります。
    失礼いたしました。

  4. 2012年の日経記事(↓)ですが、関連があるのかないのか・・・

    http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF2800I_Y2A220C1EE2000/

    • argusakita より:

      あまり詳しくは書けませんが、ご興味があればLTEや住基ネットやウィルコムといった単語で調べてみてください。
      ソン・ジョンウィという政商の姿が見えてくるかもしれません。

  5. ブルーベリー より:

    青森県青森市出身の古坂大魔王(43) ピコ太郎の「PPAP」でギネス認定!
    http://www.hochi.co.jp/entertainment/20161028-OHT1T50146.html

    国内で24年間も売れなかった芸人が、動画を投稿したら、
    YouTube閲覧回数が、2週連続で世界一の快挙!
    全米ビルボートチャート77位になって、いきなりギネス入り!

    日本で認められなくても、海外で認められるという、良い時代になりました。
    秋田県民も感性が特殊なので、国内より海外で認められるかもしれません。
    ネットを活用できれば、可能性は無限。 

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