良くも悪くもトランプに注目

トランプの当選はやはり予想外だったが、直前に得た情報では大逆転がある可能性大ということで、実際にそうなると歴史的に大きな転換点かとも思ったが、当選後にオバマと会談した際の借りてきたネコ状態を見ると、トランプも案外普通のオジサンだったかという印象。マーケットの予想は逆になってしまった。(欧州はアウディの問題など別の理由で低調だが)
選挙期間中の公約をすべて実行したらさすがに悪の何とかと言われかねないが、案外それもスピードが問題で一度に急激なchangeではなくても段階的なプロセスを進めば、後で振り返れば大きな変革になったと言える事態になりそうな予感。それにしてもホワイトハウスには入らず公式行事以外はトランプタワーで執務をと言っているらしく、なかなか周りも振り回されそうだ。


trump3何故、クリントンが負けたのかは様々な分析が行われているが、全米の投票率が若干下がり、若者の投票率も低下、年寄りの投票率上昇などの数字を見ると、全米の事前の支持率というのが如何に当てにならないかを証明したが、結果としては、
・サンダース支持だった民主党支持者がクリントンに投票しなかった(投票所に行かなかった)
・暴言が多いトランプを支持するのを表向き躊躇った隠れトランプ支持者が実は多かった
ことが勝敗を分けたのではないかと思われる。
Make America Great Again. のスローガンが何を具体的に指すのか、アメリカは軍事とエンタメくらいという認識の筆者にはあまりピンとこないが、漠然としたノスタルジーであれば、さしずめ日本では戦後レジームに関わるレコンキスタ・失地恢復といったものが当てはまりそうだ。

選挙結果でショックを受けたのは、アメリカに限らず世界中の富裕層・支配層・特権階級だろう。クリントンほど金をばら撒いてもアメリカ大統領にはなれなかったのだという事実と一説には歴代大統領選で最も金を使わなかったとされるトランプが当選したことは、政治・政府を金とロビーで動かしてきた富裕層・支配層・特権階級にとっては大きな危機感を感じたことだろう。
また、さらにショックが大きかったのはメディア全般だろう。
トランプの発言や過去の言動やスキャンダルをことさらクローズアップし、Political Correctnessという建前を普遍的に通用する価値と認識していたメディアとしては、『ホンネ』やナショナリズムが前面に出ることを『悪』とする誘導を行ったものの、結局そのPolitical Correctnessよりも優先するのは身近な格差や貧困のほうだったという現実に敗北したというか大衆を読み切れなかったようだ。

メキシコとの国境を作ることの是非や実現性ばかり取り上げ、ヒスパニックによる犯罪の多寡やその移民達の不法性や社会的コスト増には焦点を当てない。
これは、日本で朝鮮人に対するヘイト・スピーチがどうのと批判するメディアが、何故外国人の中で朝鮮人だけが特別に忌み嫌われるかの明確な理由や歴史的な経緯、事実を伏せているのとまったく同じ構図だ。
つまりメディアやシンパの政治屋の言うPolitical Correctnessには都合の悪いものに蓋をしてそこから始めるという暗黙の了解があるのである。
選挙後もトランプ=悪、あるいは政治家・軍人としての経験値ゼロを喧伝し、リベンジを図ろうとするアメリカのメディアは振り上げた拳をソローリと下ろすことになりそうだ。

しかし、他国に与える現実の問題は、やはりトランプのアメリカ第一主義の実現性である。
日本や支那からの輸入を制限し、アメリカの雇用を創出・回復すると言っても、既に単線的システム段階でアメリカは製造から金融への変貌を遂げて久しく、例えばTVのメーカーはゼロであり、アジアからの輸入以外に消費者がTVを入手する術は無い。スマホもS/W以外は無いといっても過言ではない。強いて言えば復活が望めるのは鉄鋼と自動車くらいか。しかし、鉄鋼などは支那やインドの価格に追いつくことは既に不可能であり、自動車についてはカリフォルニア州のように環境基準で非関税障壁を設けるのが関の山で、それらは逆に国内消費者にコスト増の負担を強いることになる。トランプは国際的な分業の実態をあまり把握していないのではないだろうか。

また、安全保障に関しても『駐留国が予算増額しなければ撤退も視野に入れる』と言っても、日本を始めドイツもイタリアもその気になれば核も含めて自前の防衛技術・産業はあるため、セコムが料金を値上げするなら、DIYで自前の警備装置を買ってきて付けたり、あるいは料金の安いALSOK(例えばロシア)に換えると一斉に言い出せば困るのはアメリカ自身である。
そもそも、海外に展開するアメリカの陸・海・空・海兵隊が全てアメリカに戻る事態になった場合、それを持て余すのはアメリカである。海外に展開して常にどこかの紛争に顔を出し、武器弾薬の消費をし続けないともたないのがアメリカ軍(と軍産複合体)であり、回遊魚が呼吸のために泳ぎ続けないと死ぬのと一緒である。
国防能力以上の軍備を持つアメリカをさらに軍備増強するというトランプの主張は、それを受け入れる国との間で矛盾を生むことになる。

選挙中のビジネスマンとしての特定の産業セクタへのリップサービスも徐々に落ち着いてくるとは思うが、逆にそれが全く反故にされた場合は、トランプ支持者達は手の平を反す可能性もある。
TPPに反対・撤退を主張していたが、そもそもTPPや欧州とのTTIPや日欧EPAは支那の独壇場となった世界の貿易体制においてWTO/GATTの枠組みが機能しなくなったために、再度日米欧が貿易ルールのイニシアチブを握るのが大目標であるメガFTAなのだということを理解すれば、TPPへの反対は中長期的にはアメリカに不利益なことがすぐにわかるはずだ。

国際分業体制や金融マーケットの大きさが昔とは全く違う現在、関税・国内雇用・排外主義で国内第一を目指しても無理なものは無理で、自国の首を絞めるだけである。
それらを煽るかのようなナショナリズムの勃興は、『ホンネ』のガス抜きとしては必要だが、なかなか現実性が乏しい。
また、そういったナショナリズムの衝突がいつか来た戦争への道であるかのようなステロタイプな識者の意見も数多く見られるが、大国に最終兵器である核がある現在は重商主義・帝国主義・砲艦外交の時代とは異なり衝突の限界を皆知っている(はずだ)ため、筆者は否定的・楽観的である。無論、『消費のための局所的な武力衝突』は続くことは間違いない。

asotaroいずれにせよ、今後トランプはビジネスマン的感覚で動くのかどうかが注目だが、もしそうなら、Political Correctnessなどぶつけずに経済感覚優先の外交が日本でも必要となる。
ポスト安倍はずいぶん先の話になりそうな気配だが、もし元気なら麻生太郎再登板というのも有りかなと思える今日この頃。
その前にトランプが『やーめた』と職を放り出したり、JFKのようになるかは不透明だ。


the-crusaders-standing-tall今日の一曲
1995
The Crusaders , Joe Cocker “I’m So Glad I’m Standing Here Today”
個人的にCrusadersも好きだが、ボーカルでJoe Cockerが大好きなので再び。
このCrusadersのアルバムStanding Tallは全曲逸品だが、この”I’m So Glad I’m Standing Here Today”は歌詞もジーンと来る。この歌詞がピンと来ない人は幸運にも孤独や孤軍奮闘とは無縁な人生かもしれない。


 

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良くも悪くもトランプに注目 への5件のフィードバック

  1. ブルーベリー より:

    トランプ大統領、 ライバル億万長者の頭をバリカンで丸刈りに!
    http://www.sankei.com/world/news/151015/wor1510150037-n1.html

    トランプは利口にもなれるし、バカにもなれる恐ろしく有能なビジネスマンです。
    プロレス興行で学んだノウハウで人心掌握しているようです。
    現に、「炎上商法」で政治経験ゼロの泡沫候補から大統領になるという、歴史的なウルトラCを達成しました。

    トランプは、「行き過ぎたグローバリゼーションの調整」をしたいのだと思います。
    GDPが増え続けても、中間層が激減して貧困層が増えていますから、何らかの調整は必要でしょう。
    しかし、日本や中東にとっては厳しい情勢になるでしょう。

  2. >何故外国人の中で朝鮮人だけが特別に忌み嫌われるかの明確な理由や歴史的な経緯、事実を伏せているのとまったく同じ構図

    普段小生の心の中で感じていたもやもやを「一刀両断」に曝け出したコメントだ、と思いました。
    反面教師として長崎新聞を購読していますが、この腐りきった地方紙は上記ポリシーを忠実に実行しています。

    >武器弾薬の消費をし続けないともたないのがアメリカ軍(と軍産複合体)であり、回遊魚が呼吸のために泳ぎ続けないと死ぬのと一緒

    米軍の前方展開は国家安全保障のために本土決戦を避けるのが第一目的で、もう一つは世界で一番強力(対抗馬がいない)な軍事力の信頼性に裏打ちされて、自国で好きなだけ印刷できるドルの価値担保、と聞きました。小生そう思っています。

  3. ブルーベリー より:

    エマニュエル・トッド 「トランプ氏は真実を語った」 
    彼は「米国はうまくいっていない」と言いました。ほんとうのことです。
    「米国はもはや世界から尊敬されていない」とも言いました。彼は同盟国がもうついてこなくなっている事実を見ています。そこでも真実を語ったのです。

    ここ15年間、米国人の生活水準が下がり、白人の45歳から54歳の層の死亡率が上がりました。
    自由貿易と移民が、世界中の働き手を競争に放り込み、不平等と停滞をもたらした、と人々は理解し、その二つを問題にする候補を選んだ。 有権者は理にかなったふるまいをしたのです。
    http://digital.asahi.com/articles/ASJCJ4V6CJCJUPQJ006.html?rm=700

    「経済のグローバル化を推し進めれば、世界中が豊かで平和になる」 という幻想が崩れたのかもしれません。  幻想を前提に成り立っていた国際関係が激変する気がします。 

    • argusakita より:

      朝日新聞がトッドを取り上げるのはいささか面妖です。担当記者は80年代からの著作を読んでいないのかもしれませんね。
      ここ15年間を見ると、いわゆる『中間層』(各国為政者が景気に合わせて作り上げた幻想ですが)の貧困化はアメリカに限らないと肌で実感します。日本でも欧州でも。

      >自由貿易と移民が、世界中の働き手を競争に放り込み、不平等と停滞をもたらした
      ここはトッドの指摘だけでは不十分で、インターネットによる知価の低下とあらゆるもののライフサイクルの短期間化がとにかく『スピード』を要求するようになったことが大きいと私は思います。

      かつて純粋な左翼が世界市民、世界同時革命によってボーダーレス化を目指し失敗したのと同じく特権階級によるグローバリズムもまたどうやら失敗(誰にとって失敗かの視点も議論でしょうが)なのかなという印象です。なかなか皮肉な展開ですね。

  4. 梅子 より:

    トランプ現象に近いことは、安倍さんが総理になったことで、日本でも起こっているのに気がつかないマスコミ。トランプ大統領にパヨクが発狂してますね。馬渕睦夫さんは、トランプはある程度アメリカのグローバリスト達と折り合いがつけば、今アメリカで起こっているデモも静まると言ってました。それを聞いたとき、「どこの国のこと?」と思いました。

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