プーチンという『システム』

先日の日露首脳会談の記事をあれこれ眺めていると、大体予想された結果の通り北方領土問題の進展は具体的にはほとんど成果が無く、日本側からの8項目の経済協力を関連省庁間で具体的にパートナーを示して民間主体で進めるといった方向性の確認のセレモニーに終始したような印象。何しろ民間主導で3,000億円とは相当に物足りない額だ。


プーチン大統領とウラジーミルと呼び方を混ぜて、安倍首相が必死に個人的な信頼関係の醸成に必死なのは伝わってくるものの、相手のプーチンは会談後のソン・ジョンウイ(孫正義)との立ち話のときのにこやかな笑顔は見せず、ポーカーフェイスに終始していた感じである。長門市の温泉宿での会談も中身があったのかどうなのかイマイチ伝わってこない。アメリカが政権移行で忙しい空白時期でもあったことや、EUは会談中の同日に改めて対ロシア経済制裁の延長を発表するなど、相変わらず日本の味方は皆無の世界情勢だが、その中で具体的な成果が実効性のあるものだったかどうかは、しばらく時間が必要のようである。
少なくともアメリカやEUからは日本外交のスタンドプレーと評価されているようである。(まあ、たまにはそういうのも良い。独立国家なのだから)

だいぶ前からプーチンの訪日予定は準備が進められ、多くの日本人が北方領土に対する淡い期待について日本側メディアも伝えていたが、ロシア側のメディアは領土問題に関しては一切変更は無いことを伝えていたし、実際その通りとなり、少々落胆したのは日本側であるのは明らかだが、安倍首相がソチ以来何度かの会談でウラジーミルと呼び方を交えて個人的な信頼関係を重要視していたのはよくわかるものの、それほどプーチンとの個人的な付き合いの重要性が今も尚高いかという点では筆者は少々疑問が残る。

というのは、ロシアには年に何度も出かけ、仕事先の知人達と話している限りでは、1,2期目の大統領時代と比べて2012年5月以降の第3期目のプーチンは、それまでと同様にプーチン個人自体への支持の高さをアピールしてはいるものの、1,2期目の時とは明らかに違う空気がロシアにはあり、プーチン個人というよりも、ロシアにとって必要なのはいわば『プーチン機関説』とでもいうべき、プーチンという『政治システム』が必要であり、そこに対する支持をアピールしプロパガンダを継続しているように思える。

putin実際、最近のプーチンはTVなどで見てもかつての『今にも引き金を引くかナイフを構えるような』眼光の鋭さや怖さは影を潜め老獪な政治家風になってしまった印象だ。(だいぶ整形もしているとの話もある)
それこそKGB時代には自らの手でターゲットを消したり、旧東独のドレスデンで学生達を指揮する工作員としての仕事(おそらくメルケルとはこの頃からの旧知)では様々な謀略をコントロールしてきただろうが、今やその研ぎ澄まされたオーラは全く感じさせない。
白黒の記録映画で見るスターリンのほうがよほど凶暴性や冷酷さを感じさせる顔つきと表情だ。
そもそも、ウラジーミルと呼ばれたくらいで親密になるほど他人に心を開くような人物ではないしそうさせない訓練を若い頃徹底されたはずである。

余談だが、安倍首相は時々ウラジーミルと呼んでいるが、ロシア人の呼び方は名前によってその愛称がほぼ決まっていて、ウラジーミルの場合はヴォーヴァ(Вова)かヴォロージャ(Володя)がお決まりである。外相のセルゲイ・ラブロフの場合はセリョージャ(Срёжа)だろう。

プーチンというシステムあるいはプーチン機関説は、メドベージェフ(ロシア語ではクマの意味なのでクマさん)と首相と大統領を交換(禅譲?)した西側ではあり得ない政治劇を見ればわかるように、プーチンを支える元KGBの組織FSBやSVRのメンバー、出身地サンクトペテルブルクの派閥、故エリツィンの人脈を抱えるラブロフ一派に加え、ソ連崩壊後のエネルギー他(実質)国営企業の幹部らがプーチンというシステムを支えている。
そして、それらの支えとなっているのはソ連崩壊後に生まれたロシアにおける中間層である。

この中間層は教育水準も高く、比較的西側他国の事情もよく知っていて、共産主義のダメさと資本主義の問題点も両方を知っている。そのため、この分厚くなりつつある中間層のコントロールを間違うと、ロシアは政治的に大きな変更を余儀なくされる。そのため、この中間層に近い良識のある新興財閥(オリガルヒ、例えばユコス社の元社長のミハイル・ホドルコフスキーのような)の動向は非常に警戒されている。
ホドルコフスキーは長年収監されていたが、結局国外追放となり東ドイツで解放された。
もし、ホドルコフスキーがプーチンの個人的な恨みの対象なら、収監中でもいつでも殺すことは簡単だったはずで、それを国外追放という処理とその後の他国での反プーチン政権の言論を許しているのは、プーチンの指示というよりもプーチンというシステムが合議の上選択した処置だったのではないかと思われる。

個人的な推察だが、プーチンは若い頃はそれこそ血なまぐさいことに手を染めて暮らしていただろうから、いい歳になって(安倍首相より2歳上)、敬虔なクリスチャンでもあることから贖罪の意識も強くなってもおかしくはない。しかし、現在のロシアの支配層がかつての共産党の集団指導体制とどこか似ているのと同様に、プーチンというシステムの重しが無くなった場合には大きな混乱は免れない。
それを回避し、中間層が比較的安定した暮らしをするためには、どうにかしてプーチンというシステムを維持しないといけないようだ。それをうまくやっていくためにはプーチンへの個人崇拝的な色彩のほうがロシアの強権的な歴史や国民性を考えた場合にはマッチしそうだ。実際、ロシア人にはわかりやすそうだ。
そのためにメディアを使ったプロパガンダが未だに当たり前なのも頷ける。

クリミアを巡ってのロシアに対する経済制裁は金融面では未だに強いが、農産物の貿易に関しては効果が薄れつつある。ロシア各地では冬でも野菜供給が可能なように植物工場などが普及しつつあり、自給の割合がジワジワ高くなっている。そうなると、ロシアに農産物を輸出していたポーランドのような国は経済制裁がむしろ自国の首を絞める格好になり、経済制裁を緩和すべきという声も上がっている。
さらに今回の日露首脳会談の結果で植物工場が極東地域でも『日本の協力で』普及するとなれば、これはまさにアウタルキーのロシアという格好のアピール材料になる。(経済制裁など何の効き目もありませんよ、と)
今回の日露首脳会談の成果は、ロシア側にとっては非常に都合の良いアピールの材料となったことは間違いない。

今回の首脳会談で、安倍首相はロシアに良い材料を与えたが、一方でG7側としてはスタンドプレーとも思われかねない結果を選択した。これでアメリカのトランプ新政権がどう出るのか不明だが、日米がギクシャクすると日本がG7で孤立しかねない状況なのは確かである。
やはり来年は、トランプ次第のようである。


beegieadair-thechristmassong今日の一曲
1999
Beegie Adair”The Christmas Song”
Jazz好きな方向けのピアノトリオ。ビル・エバンスの神経に響くようなピアノではなく心地良さが絶妙。


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